大学院における研究活動――研究に求められる素養

大学院では大学院生がみずからの探求したいテーマを各自が設定し、「研究」というものを行っています。

とはいえ、具体的にどんなことをしているのかについては、実際にそれに取り組んだ人でないとなかなか分からないと思います。

本ページでは、私が実際に行ってきた研究活動をご紹介しながら、大学院生の生活というものに迫っていきます。

大学院の研究室と授業の特徴

まず、大学院に進学する人は、大学院の先生の研究室に所属します。

大学の場合でも卒業論文を書くために指導教授を選択してそのゼミに所属しますが、大学院の研究の場合は内容がより専門的になるため、そのテーマについて研究の指導が可能な先生の研究室に入ることが必須だといえます。

また、大学と同様、大学院にも履修すべき授業が存在していますが、大学と比べると大学院の授業は履修単位数は極端に少ないという特徴があります。

というのも、大学と違って、大学院の授業は10名以下の少人数で行われることが多く、その内容も大学院の教員から知識が一方的に伝達されるというよりも、あるテーマについてその場にいる人びととの間で相互に議論を交わすという面が強くなってくるからです。

また、自分の所属する研究室のゼミではさらにその傾向が強くなり、それぞれの研究テーマについての進捗状況や今後どのように研究を進めていくのかなどに関する意見交換やアドバイスをもらうといったやりとりが多くなります。

このように、大学院では自分の考えたいテーマをどのようにすればより深く考察できるのか、あるいはスッキリと分析できるのかといったことについて、自分の意見や考えを持ってそれをはっきり示していくという主体的な姿勢が求められてきます。

そのため、大学院におけるこの「研究」という部分があまりよく分からず、研究活動というものについて迷ってしまう人も一定程度存在します。

よく聞く話としては、大学での「勉強」が大変よくできるいわゆる優等生が大学院に進学したものの、そこでは自分がみずからの設定したテーマに対してどのようにアプローチしていくのかという主体的な「研究」が求められてしまったため、どのようにすれば良いのかが分からず、結局、大学院を退学してしまうということが挙げられます。

大学院では受け身で「教えてもらう」ことよりも、自分の選択した研究テーマを考えるために必要に応じてみずから学びながら自分の考えをまとめていき、論文や論考という形に仕上げていくことをしていきます。

つまり、大学院の研究活動で求められる姿勢というものは、単なる勉強といったものではなくて「このことがどうなっているのかを知りたい」という探究心や問題意識、そこで研究をすることによって「なるほど、こういうことだったのか!」という自分が理解できたことに対する知的な喜び、そこで自分が発見した研究成果を論文や論考として発表するといったものなのです。

研究テーマの設定と先行研究の検討

大学院では、大学院生が自分の研究したいテーマを設定し、研究活動を行っていきます。

この研究テーマについては、特に決まりがあるわけではないので、自分が分からないことを知りたい/明らかにしたいと思うようなものを設定します。

大学で卒業論文を執筆した経験のある人であれば、このことについてはある程度分かってもらえるのではないかと思います。

ただ、大学院における研究テーマの設定と研究活動については、大学の頃に比べてかなり本格化するのが特徴です。

たとえば、私の場合であれば、もともとマス・メディアの領域を専攻しており、なかでも新聞の「見出し」というものを研究対象に設定していました。

なぜ、新聞の見出しを考察の対象にする必要性を感じたのかというと、私たちが新聞を読む場合には見出しを見てから記事本文を読んでいきますが、その見出しにどのような言葉が並べられているかによって、その記事の本文が伝達する事件や出来事の内容の受け取り方が変わってしまうと考えたからです。

新聞の見出しは、その事件や出来事をあらわす重要かつ端的なキーワードが取り出されていて、新聞の読者が記事の内容に何が書かれているのかをひと目で分かるような形で構成されています。

つまり、新聞の読者は記事本文を読む前にその事件や出来事を捉える認識の枠組みが見出しによってあらかじめ規定されてしまうと考えられるのです。

そのため、たとえ同じ事件や出来事を報道する場合であっても、新聞社がどのような言葉を見出しに取り出しているのかによってそこには違いが出てくると考えられ、そこから各新聞社がどのような視点や角度からその事件や出来事を捉えているのかという態度の違いを明らかにしようとしたわけです。

このように、大学院における研究テーマを設定する場合には、自分がその研究対象を選択する意義やそれを明らかにすることによって何が分かるのかという部分をより明確にする必要があるといえます。

また、大学における卒業論文では、主にその分野の書籍を参考にして作成することが一般的かと思いますが、大学院では他の研究者が執筆した専門的な論文や論考というものを参照・引用することが多くなります。

そもそも研究活動とは、自分が選んだ研究テーマに先行研究が存在しているかどうかをリサーチしてまとめた上で、そこに自分の見つけた新しい発見や知見を付け加えるという作業のことを指しています。

大学院の研究活動では、自分の設定した研究テーマに関連する論文や文献をどこまで広く集めることができるかという文献収集のスキルが求められるようになり、自分の研究がどれほど進められるかは、大学の図書館や文献検索がどれくらい使いこなせるのかにかかってくるといえるのです。

大学院の研究で求められる素養

以上、大学院における研究活動の概要についてご紹介してきました。

研究において求められるのは、あくまでも自分の疑問や問題意識が最初にあって、そこに知識や勉強というものが付随してくるということです。

そのため、研究テーマというのは、そのような自分の疑問や問題意識をいいかえたものといっていいでしょう。

かくいう私自身も最初からこのことが分かっていたわけではありませんが、研究の世界に長らく身を置きながら研究活動とは何をしていくことなのかを学んできたという経緯があります。

物事や出来事の舞台裏やしくみがどうなっているのかに興味関心を覚える人には、研究活動が向いているのではないかと思います。