レポート・論文の書き方(実践編)――構成と執筆方法

前項では、レポート・論文の書き方について私が経験してきたことも交えながらその特徴を説明しました。

研究論文では、自分が研究した結果として明らかになったことを読者に理解してもらえるように文章を書く必要がありますが、これが実際に取り組んでみるとなかなか難しいところがあります。

今回は、論文を書くときに注意しておきたい点などを取り上げ、より実践的な内容について触れていくことにします。

論文の内容と構成

人にもよりますが、大学院の修士課程(マスター)に入学した後に研究論文を執筆する機会としては、おそらく修士論文が最初になると考えられます。

大学院に入学したばかりの人の場合、当然ながら研究活動というものがどういうものかが分かりませんので、修士課程の修業年限となる2年間にそれぞれの指導教授の下で研究テーマの選択や研究の進め方、論文の執筆方法などのアドバイスを受けながら修士論文を完成させることになります。

さて、研究論文には、自分の研究において行ったデータの収集や分析、そこで得られた結果や知見をその内容として書いていきます。

ただ、そこでいきなり研究の結果だけを示しても、他の人にはそのデータが何を示しているかが理解できませんし、それを研究したことにどんな意味や意義があるのかも分かりませんので、研究論文ではこれらの内容をも含めた上でそれらを順序立てて書くことが求められます。

前回の「レポート・論文の書き方(理論編)――研究論文の特徴」のページで示したように、論文では自分の研究成果を(1)「序論」、(2)「本論」、(3)「結論」という枠組みに当てはめる形でそれぞれの内容をまとめていきます。

(1)「序論」では、この論文が何を研究テーマとして取り上げ、その何が問題となるのか、これから自分が何を明らかにしようとするのか、それをどのような方法を用いて行うのかなどの論文全体の概要や見取り図となる文章を書いていきます。

(2)「本論」が論文におけるメインとなる部分で、その前半では先行研究について言及することが多いです。

自分が研究の成果を発表しようとする際、それがすでに他の人によって行われてしまっているとそれを発表することの意味がありませんので、自分が取り上げる研究テーマと研究対象についてこれまでにどんな意見や考え方があったのか、あるいは自分が考えた研究方法や分析方法がこれまでに存在したのかなどについて、先行研究の引用やそれについて触れながら自分がこの論文で行う研究の方向性や分析方法などを提言していきます。

その際、引用の方法やその言及の仕方については、学会や大学院によって採用されている様式が違いますので、そちらを参照してください。

なお、私が専門とする社会学では、日本社会学会の「社会学評論スタイルガイド」というものでその引用や言及の仕方が説明されていますので、参考までにご覧ください。

このような研究テーマに関する周辺状況を整理した後、本論の後半部分では自分の研究において実際に行った分析やデータの提示、その結果として明らかになった内容などについて書いていくことになります。

最後の(3)「結論」の部分では、(2)「本論」で得られた分析や考察の結果を振り返り、そこからどのようなことが言えるのか、自分の研究としての結論は何なのかについて述べていきます。

また、今回の自分の論文で新たに見出された課題や自分の研究の展望について記述することもあります。

以上が研究論文を書く上での基本的な構成とその内容となっています。

論文を書くことに慣れてくると自分なりの表現方法や章立ての仕方といった工夫を取り入れることもできますが、まずはオーソドックスな論文の構成で書くところからスタートし、自分の研究で明らかになったことや分かったこと、それにどんな意味があるのかといった内容を人に伝えるための書き方ができれば研究論文を執筆する目的を果たすことができたといえるでしょう。

論文を書く際に意識すること

大学院の博士課程(ドクター)に進学すると、自分の研究がある程度進むたびにその成果を研究論文にまとめて書くことが増えてきます。

特に、博士課程の場合は自分の所属する学会の学会誌や研究雑誌、大学が発行する紀要などに執筆した論文を投稿していき、研究業績を作っていくことになります。

その際、学会や大学によって規定はまちまちですが、投稿論文ではおおよそ2万字前後で自分の研究とその成果に関する内容を述べていきますので、それぐらいの文字数で自分の研究内容をまとめるためにはそれ相応のスキルが求められるといえます。

以下、私自身が研究論文を執筆する上で心がけてきた点について、いくつか紹介していきます。

まず、論文の構成については、おおよその内容をどの順序で並べていくかという章立てが重要になります。

論文の枠組みは、以上で説明した(1)「序論」、(2)「本論」、(3)「結論」で問題ないのですが、それぞれのさらに細かい内容については章のタイトルや見出し、小見出しなどをうまく使い、どこにどのような内容を書くのかという目安や目標を作っていきます。

もちろん、内容同士の緊密なつながりがあるにこしたことはありませんが、それぞれの内容が多少独立していても章立てや見出しを用いてそのつながりを作っておけば、論文全体として論旨のつながりを作ることができます。

また、この論文の論旨を作る上で欠かせないのは、論文の「本文」に書くべき内容と「注」に書くべき内容の違いを意識することです。

前項で説明したように、研究論文では文章を記述するところとして、本文と注というふたつの箇所が存在しています。

もし、自分が伝達したい内容をすべて本文で記述してしまうと、話が横道にそれたり論旨とは関係のない話題が続いたりした場合に論文の内容が不明瞭になってしまうおそれが出てきます。

そのため、論文の本文部分には論旨に関わる文章を書いていき、それ以外で自分がその研究テーマで気づいたことや触れておきたいことなどについては注記として分けて書くようにすると、自分がどこにどのような内容を書くべきなのかが分かってくるようになります。

次に、論文の文章は簡潔かつ明瞭に書くことが必要ですが、自分の説明したい内容を説明したいように書くためには、語彙力やさまざまな表現方法を数多く習得していくことが大切です。

その際、私自身もやっていたことですが、自分が良いと感じた論文の文章をそのまま真似て書き写してみると、その執筆者の書き方や言葉・語句の選び方を学ぶことができます。

さらに、読者にとって読みやすい文章を書くためには読み手に余計な負担をかけないような平易な表現をすることが重要で、そのポイントとして「漢字」と「接続詞」を多用しないということが挙げられます。

漢字については、論文の中では漢字を用いた専門用語などが出てくることが多く、ひらがなで表現できるところはひらがなで書くと読者にとって読みやすい文章になります。

いくつか例を挙げると、「例えば」→「たとえば」、「従って」→「したがって」、「尤も」→「もっとも」などの言葉は漢字よりもひらがなで書く方が読みやすくなります。

接続詞を多用しないというのは論文の文章構成に関わる話で、「しかし」「だが」などの逆説をあらわす文章が何回も出てくるとその都度論旨が反転し、自分の伝えたい内容が受け手に伝わりにくくなってきます。

接続詞をなくした文章をそのままつなげていけばそれで順接としての表現ができますので、何度も逆説が続くような場合は文章の順序を入れ替えてその内容を整理した方が良いでしょう。

また、否定を入れた表現をできるだけ用いないことも文章を読みやすくするポイントです。

あることを話題に出した上で「~ではない」という否定の語句を用いることは、読み手からするとその内容を思い浮かべてはそれを打ち消すという作業が生じることになります。

そのため、論文の文章としては、できるだけポジティブな表現を用いて順接の形で書いていく方がその内容が読者に伝わりやすくなるといえます。

研究論文を執筆する意義

私自身、これまでいくつも研究論文を書いてきましたが、その位置づけとしては論文を執筆することを通して自分がそのときまでに取り組んできた研究成果とその内容をまとめるという役割があると考えています。

学術研究というものはその都度課題が残るものですし、どこまで行っても途上であることがほとんどです。

論文を執筆するというその時々のアウトプットを意識することで、普段の研究においても「このネタを論文に書きたい」「この面白い事実を取り上げよう」といった自分の研究の方向性や自分の伝えたいことが明確になってきます。

また、今回は論文の構成以外にも文章の書き方について取り上げました。

自分の理解した内容を他者に分かりやすく伝達することが論文の目的ですので、それを実現するための言い回しや語彙などを身に着けていくことは、自分が研究の中で考えていることをどのように捉えれば良いのかという他者の視点や観点を交えて考えることにもつながります。