レポート・論文の書き方(理論編)――研究論文の特徴
前項でも確認したように、研究活動の最終目標は研究対象の分析結果や考察の結果を研究論文としてまとめることです。
この論文については書き方というものが存在していますので、それについても知る必要があります。
ただ、書き方の解説をする前に、研究論文にはその特徴がありますので、それを確認するところから始めると実際にどのように書けば良いのかがイメージしやすいと思います。
今回は、研究論文を具体例として取り上げ、論文のしくみとその特徴について一緒に考えていきましょう。
レポート・論文の特徴と構造
論文の書き方については、大学でレポートを書いた経験がある人であれば、その延長にあることが何となくイメージしてもらえるのではないでしょうか。
ただ、このレポートという言葉についてですが、日本の大学でレポートといえば、本格的な研究論文未満の小論文のような報告文書という捉え方だと思います。
しかし、英語で研究論文のことはレポート(report)といいますので、両者は本来同じものを指しています。
研究論文の書き方を知っておけばレポートも書けるようになりますので、以下では論文を取り上げてその特徴を説明していきます。
なお、論文の例については、前回ご紹介したものと同じものとなります。
私自身も実際に論文を書いてみるまで知らなかったことや分からなかったことがいくつかありますので、そのことについて説明していきましょう。
まず、この論文を眺めてみたときに目に入るのは、本文の文章とは別の枠外のところに書かれた番号の振られた文章だと思います。
これは「注」というもので、研究論文に特徴的なものだといえます。
本文と注との違いですが、本文で言及する内容としてはそれほど重要度が高くないけれども触れておきたい情報や、本文でそのことに言及すると脇道にそれてしまうが付加情報として挙げておきたい内容を示す場合に注を使用します。
次に、論文の文章末には文献のリストがついています。
論文の文章中で他の研究者の意見や成果、すなわち先行研究について言及・引用する場合、その根拠となる文献をこのように列挙する必要があります。
また、レポートや論文については全体の構造というものがおおよそ決まっており、以下のような三角形のようなイメージをすると分かりやすいと思います。
研究論文は、(1)「序論」、(2)「本論」、(3)「結論」という3つの構成になっており、今回取り上げた論文についてもこの形に沿って執筆しています。
(1)「序論」の部分では、研究の目的や何が問題になるのかという問題設定を行ったり、あるいは仮説を提示したり、その他、論文全体の概要などについて記述します。
(2)「本論」がこの論文のメインとなる部分で、そのとき取り上げる研究テーマについてどういう方法で分析と考察を行い、そこでどのような結果が出たのかという内容を書いていきます。
最後の(3)「結論」の部分では、今回行った研究についての分析結果とそれが意味するところを考察し、研究の結果として明らかになった内容が何であったのかについて言及します。
図の三角形の頂点にあたる部分には「A」と「A’」というパートがニアリーイコール(≒)でつながれていますが、これは(1)「序論」と(3)「結論」の部分では似たような内容を書くことになるためです。
もともと、(1)「序論」においてこの論文を書く目的やその概要を書いているわけですので、(2)「本論」の分析と考察を経て、それを検証してみると結局どのような結果と考察が得られたのかを(3)「結論」の部分で改めて吟味するという流れになります。
また、「B」と「C」のパートはひとつにまとめられていますが、より細かく分けるのであれば、「B」には先行研究の検討と分析方法の提示、それを受けて「C」では実際の分析とそこで得られた結果の考察というイメージになります。
論文の構造については以上のような形になっていることが多いので、論文を書く際にはこの枠組にあてはめる形でその内容を記述していけばよいということになります。
なお、例として取り上げている論文については、序論の前のところに「概要」、結論の後に「課題と展望」「むすびにかえて」という箇所が追記されています。
これらの部分については論文を執筆する人のスタイルが反映されるところになりますが、論文の読み手としてはそれがあることによって研究の全体像や研究成果、残された課題などが分かりやすくなるといえます。
論文の文章表現と文体
論文というものを実際に執筆してみれば分かりますが、ある程度まとまった文章を論文という形で書くのはなかなか難しいところがあります。
中でも、論文で求められる文章の表現、すなわち文体というものについては、私自身もそれがどういうものかよく分かっていなかったために苦労してきた経験があります。
まず、研究論文では「だ・である」調で文章を書いていきます。
これについては特に問題はないでしょう。
次に、研究論文で求められる文章表現とは、研究を通して明らかになった事実を読み手に明確に伝えることです。
そのため、論文の文章を書くときには、研究対象とそれに対する分析や考察およびその結果についてできるだけ分かりやすく表現することを意識します。
論文の文章表現というと、大学受験などで触れてきた「現代文」、中でも「評論文」というものを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、そこで用いられていたような小難しい言いまわしや読者の理解を阻むような表現方法を使う必要はありません。
また、大学受験の科目の「小論文」とも違っていて、そこで求められるようなテクニック的な書き方をする必要もないといえます。
さらに、研究論文では、「私は~」という一人称を主語にすることはほとんどなく、自分が説明しようとする物事や対象物を主語に据え、第三者的にその内容を説明・伝達するようなスタンスで文章を書いていきます。
実際に「私」で始まる文章を書いてみると、その語尾には「思う/感じる/考える」などの言葉が対応することになります。
もちろん、自分が研究対象についてどのようなことを思ったり感じたり考えてもよいのですが、論文では自分の感想を述べることよりもその研究対象について考えた仮説や分析方法と考察、そこから導き出された結論に至るまでのプロセスを分かりやすく記述することが求められます。
たとえば、今回例に挙げた論文の場合、私たちが最終的に表現したかったことは、新聞社の報道した皇室の新聞記事を比較することを通じて、各新聞社の皇室に対する「敬意」のあり方の違いを明らかにすること、それを数値として表現するために考案した分析方法の紹介、それを用いて実際に分析した結果などです。
当然、研究を行う上では新聞記事を見ながらいろいろな感想や思いつきが出てきますし、事実、新聞記事の「開始段の高さ」を「皇室に対する敬意の高さのあらわれ」として捉えたことは、私たちの単なる思いつき以外の何物でもありません。
しかし、そのことを研究における仮説として設定し、それを数値として示すための分析方法を検討・考案して実際に分析と比較をしてみると、新聞社の皇室に対する態度の違いを明らかにできたという結果が得られ、その一連のプロセスを分かりやすく表現することがこの論文を執筆する上での目的となるわけです。
このように、自分の研究の中で抱いた疑問や仮説、分析方法と考察、そこから読み取れる結論をシンプルに表現していくことが、論文の文体として真に必要なことだといえます。
論文の明確さと構造とのつながり
今回は、実際の研究論文を参考にしながら、その特徴と構造について見てきました。
研究論文では、とにかくその研究で何を明らかにしようとするのかという問題設定と、具体的な分析方法や考察、その結果から得られた結論までに至る過程を分かりやすい言葉で表現することが求められます。
「序論」「本論」「結論」という論文の構造がある程度決まっているのは、そのような論文に求められる明確さや明瞭さと関連しているといえるでしょう。
研究論文に関する具体的な書き方については、次回取り上げます。