研究テーマへのアプローチ――研究活動の具体的方法

前項までで、自分の研究テーマに関連する先行研究の書籍や論文に関する資料の収集の仕方について解説してきました。

先行研究を調べることで自分の選択した研究テーマの解明がどこまで進んでいるのかを知ることができますし、それをふまえることで自分が次にどのようなアプローチでその研究テーマの不明な部分を明らかにすることができるのかという研究の方向性や指針を発見することができるようになります。

今回は、自分の研究テーマに対する分析や考察を進めるために、どのようなことを心がけるべきなのかについて具体例を挙げながらご紹介していきます。

研究テーマの設定と具体化の作業

研究活動をしていくためには、自分の研究したい研究テーマを選択する必要がありますが、これについては自分がどのようなことに興味があるのか、どのようなことを深く考察したいのかは人それぞれですので、自分の好き好きで設定して問題ありません。

ただし、自分がある研究テーマや研究対象を設定したとしても、それが考察や分析するのに価値あるものかどうかを考える必要があります。

たとえば、自分がスポーツに興味があってそれを研究のテーマしたいと考えたとしましょう。

しかし、ひとくちにスポーツといってもさまざまな種類のものがありますので、そこからどのスポーツを対象とするのかを決める必要があります。

また、あるスポーツを対象とするならば、自分は何を知りたくてそのスポーツを取り上げるのか、そのスポーツをどのように考察・分析すれば自分の知りたいことが分かるようになるのか、さらにはそれを自分が明らかにすることによってどのような研究としての意義を示すことができるのかなどを考えてはっきりさせる必要が出てきます。

このように、研究活動において研究テーマを設定する際には、それをできるだけ具体的な形に落とし込むこと、すなわち「具体化」という作業が必須となります。

自分があることに興味や関心があってそれを研究テーマに設定したとしても、それを問うことの意義が明らかにできなければ研究活動そのものの意味がありませんし、あいまいで不明瞭な問いかけのまま研究をスタートさせても、その研究は結果的にどこの場所にもたどりつきません。

以上のことについて、私がもともと研究テーマとして設定していた新聞の「見出し」というものを例に挙げて考えてみましょう。

新聞の「見出し」を研究する意義

みなさんも新聞の「見出し」というものは見たことがあるかと思いますが、私はこれを自分の研究の対象として設定しました。

ここで私がそのテーマを研究の対象に選んだ理由について、単に「私は新聞の見出しに興味があるので」と説明したとしても、そのままではそれを問う意味は出てきませんし、研究の方向性についても出てきませんので、自分の感じた疑問や問いかけを具体化していく必要があります。

私たちが新聞記事を読むときには、おそらく記事の見出しを見て、そこから記事本文を読んでいくという順序になることが多いと思います。

このとき、新聞の読者は記事の見出しに出ている語句を見ることで、その記事に書かれたおおよその内容を把握することができ、そこで興味を惹かれれば記事本文を読んでいくことになりますし、そうでなければまた違う記事を探すということになります。

この記事の見出しには記事本文の内容を端的にあらわすキーワードが用いられており、その語句を手がかりとして記事本文を読むことになります。

つまり、新聞読者は記事本文を読む前に、新聞社が設定した見出しに出ているキーワードによって記事本文に書かれた事件や出来事の枠組みをあらかじめ与えられるということになるのです。

また、ベタ記事や大見出しの記事という違いがあるように、見出しの「大きさ」にはその記事で扱われた事件や出来事の重要性やインパクトなどが反映されたものとして捉えられます。

以上のことをまとめると、新聞記事の見出しにどのような語句やキーワードを出しているのか、それをどのような大きさで伝えているのかによって、私たちの事件や出来事の捉え方そのものが実は無意識のうちに規定されているということが分かってくるわけです。

さらに、同じ事件や出来事であっても新聞社によって記事の見出しに用いられるキーワードや大きさが異なるのであれば、その見出しを比較・分析することによって、新聞社の隠された視点というものもあぶり出すこともできることにつながってきます。

このように、新聞の見出しの果たす役割や機能についてここまで考えることができれば、それを研究テーマとして取り上げて考察する意味や意義というものが見えてくることになります。

最初は新聞の見出しが漠然と気になるところが出発点になっていますが、それを研究テーマとして考察・分析するためには、見出しの作られ方や大きさの割り振られ方、そもそも新聞社の見出しがいつの時代から今の形になってきたのか、見出しで事件や出来事を端的に表現するための方法(≒文法や語法)など、それを明らかにするためには何を調べればよいのかといった「具体化」を行うことによって、みずからの研究の方向性や指針が出てくることにつながっていきます。

ここに挙げた新聞の見出しに対する疑問や問題意識は私自身のものですが、以上のように自分の中で引っかかる疑問や気になることの正体を明らかにしていくことが、研究活動を行うための第一歩となるわけです。

「学問」――「学びを問う」「問いを学ぶ」

研究活動をする上でもっとも大変で大切なのは、自分の興味のある対象や研究テーマに対してそれをどのように具体的な疑問や問いかけに落とし込んでいくのかという作業になります。

もちろん、最初は「単に興味があるから」で良いのですが、自分はそのなかでもどの部分に興味があるのか、その興味のある部分をどのようにして研究の対象や意義、研究の価値というものにつなげていくのかが難しいところだといえます。

私個人としては、研究に近い言葉として「学問」があるのではないかと考えていて、そこには「学ぶとは何かを問う」というものと「問うための方法を学ぶ」というふたつの意味が込められているのではないかと感じています。

実際、世の中にはさまざまな研究テーマが存在していますが、自分の中でその問いかけの方法を学んでいかないと、研究がまったくもって進まないということに陥ってしまいます。

問いかけの方法が間違っていると、いつまでたっても正しい答えにたどり着くことはできないので、研究をする上では実はこの「問いを学ぶ」という部分がもっともセンスのいるところだといっても過言ではないでしょう。