「笑い」と呼吸の意外な関係

私たち人間は、大きな「笑い」が生じたときには、「アッハッハ」という笑い声を出しています。

なぜ、笑ったときには、決まってこのような「笑い声」が出るのか、あるいは出す必要があるのかを考えたことはありますか。

これは、笑いと呼吸というものが深く関連していることをあらわしています。

今回は、笑いにつきもののこの笑い声と呼吸について一緒に考えてみましょう。

思考を停止させるための「笑い」

「笑い」と呼吸の関係を考えるためには、まず、人間がなぜ笑うのかという「笑いのメカニズム」の話に触れておく必要があります。

人間は、日々の生活の中でさまざまな出来事や物事に接していますが、その際、「この出来事はこのようなものだ」「あの物事はこんなことだ」というような予測や予期(≒ある種の思い込み)というものをあらかじめ想定していたり考えたりしています。

そのとき、自分があらかじめ想定していた出来事や物事と違うことが目の前で起こると、人間はそこで驚きます。

この驚きにはいろいろな種類があるのですが、そこで起こったことが自分の予測や予期とまったく違っていれば、単に「驚いた」だけで終わります。

しかし、自分があらかじめ予測・予期していたものと、「似ているけれども違う」「違うけれども似ている」というものと遭遇すると、もともと自分が予測・予期していたものと違いながらも似ているために、人間の意識は混乱してしまうのです。

このような状況を考える上での分かりやすい例として「モノマネ」というものがありますので、そこから考えてみましょう。

モノマネには「マネをする人」と「マネをされる人」がいるわけですが、当然ながらモノマネをする人はされる人とはまったく別の人、つまり「違っている」わけです。

本来、そのように違っている人であるはずなのに、それが似ているために、私たちはそれを「おかしい」と感じて笑うわけです。

このモノマネでは、私たちは「マネをする人」「マネをされる人」それぞれに対して、あらかじめ「こういう人」という予測や予期をしています。

それらは本来であればまったく別々のものなのですが、それが「似ている」と自分の中にある2つの予測や予期が意識の中でぶつかってしまって「おかしい」状況に陥り、混乱をしてしまいます。

この「おかしい」状況からくる思考の混乱を収めるために、人間は「笑い」を行うことによって「違う人が似た行動をしている」という新しい状況を受け入れるのです。

実は、このように人間が笑っている間というものは、思考はストップしています。

より正確に言えば、「笑い」という身体の動作をさせることによって、人間の思考は強制的にストップさせられているのです。

その際、この意識の混乱した人間の思考を回復させるために、呼吸が大きな役割を果たしているのです。

「笑い」と呼吸の深い関係

人間が笑う際には、「アッハッハ」という呼吸をともなった身体動作を行っています。

この笑いにとって呼吸の果たす役割は大きく2つに分けることができます。

ひとつは、「笑い」という呼吸をともなった身体動作を起こすことで目の前の状況から意識を他に向けさせて混乱状態を回避することです。

これは簡単にいえば、身体運動をさせることで強制的に脳の思考をストップさせるということです。

人間にとって身体の状況は思考に対してかなり大きな影響をおよぼします。

たとえば、あなたがトイレに行きたくて行きたくて仕方がない状況に陥ったとしましょう。

このとき、落ち着いて物事を深く考えたりあれこれと細かいことを考えたりすることはほとんどできないと思います。

それほど思考に対する身体の拘束性というものは大きく、笑いで思考をストップさせているのはこの逆バージョン、すなわち「アッハッハ」という呼吸をともなった身体動作をさせることで、混乱した頭をそれ以上使わせないということをしているのです。

笑いにおける呼吸のもうひとつの役割は、混乱した人間の脳に対して早急に新鮮な酸素を送り込むことです。

人間の呼吸には、「呼気」(こき:吐き出す息)と「吸気」(きゅうき:吸い込む息)のふたつの種類があり、このふたつを合わせて「呼吸」と言っています。

笑ったときに生じている「アッハッハ」という笑い声は吐き出す方の呼気に相当し、私たち人間が笑ったときには、常に吐き出すという行動をしていることになります。

人間は普段から無意識のうちに呼吸を行っていますが、この「アッハッハ」という断続的な呼気は、もっとも早く息を吐き出す方法であることが分かっています。

なぜ、できるだけ早く息を吐き出す必要があるのかというと、それはできるだけ早く肺にたまった息を吐き出すことで新鮮な酸素を肺に取り込み、それを意識が混乱してストップさせた脳に対して送り込むためです。

このように、笑いにともなって「アッハッハ」という呼吸を行うことで、人間の脳は混乱から立ち直り、目の前の新しい状況を捉えなおして受け入れるということを行っているのです。

ちょっとしたズレをきっかけとした笑いであれば顔に少しの笑みをこぼすだけで済むのですが、かなり大きなズレを受け入れるためには、このような「アッハッハ」という呼吸をともなった「笑い」をすることが人間には必要なのです。