研究のアイデアを生み出す方法――生活習慣と思考のツール

研究活動というものは、自分で研究テーマのを設定することにはじまり、そのテーマのどこが問題となるのかを自分で明らかにした上で、それに対してどのような分析や考察を行うことが適切かを判断し、そこからどのような結論に導いていくのかといった一連の作業のすべてを自分で行う必要があります。

このように研究活動を進めるためには、その人みずからが研究テーマに対してどのようなアプローチができるのか、その結果をどのようにまとめていくのかなどについて常日頃から考え続け、そのアイデアを生み出し続ける必要があるといえます。

今回は、そのような研究上のアイデアを生み出すための方法について取り上げ、私自身の経験もふまえながら思考を進めるためのツールや生活習慣についてご紹介していきます。

研究中心の生活習慣

まず、本サイトで何度か言及しているように、研究は机に向かって勉強するかのように行うものではありません。

もちろん、机に向かって専門用語を覚えたり論文や本を読んだりして勉強することも行いますが、それよりも研究では自分の研究テーマについて考えることの方が増えてきます。

そのため、研究を先に進めるためのアイデアをより効率的に生み出すためには、自分の心身を思考をうながすことにもっとも適した状態を保つような生活習慣づくりが大変重要だといえます。

たとえば、受験勉強などで代表されるようないわゆる勉強では、たとえ疲れて眠くなっても長い時間机に向かって頑張って学習を続けることが良いとされるような考え方もありますが、研究に限っていえばこのような頑張りは不要、むしろ害悪であるとさえいえます。

心身や頭が疲れている状態で何を考えても良いアイデアは生まれてきませんし、私もそのような場合はさっさと寝てしまって頭をスッキリさせてから考え直す方がよほど思考が前に進んでいったという経験を何度もしています。

研究の時間については、夜になって研究に関する本を読んだり勉強をしたりする方法もありますが、日常生活においては昼間に頭を使って疲れている状態であることも多いために、早い時間のうちに寝てしまって早朝に心身がスッキリした状態で物事を考えた方がアイデアは出やすいですし、仕事の効率も良いといえます。

また、気分転換をすることでアイデアが出てくるということもよくあります。

具体的には、お風呂に入っていたりトイレに行ったり、台所に立っていたりするときなど、なぜか水場に関わるところにいたときにいろいろなアイデアがふっと浮かんでくることが多いような気がします。

おそらく、頭の気分転換とは、いいかえれば脳内の血液を動かすということなので、身体を温めたりトイレに行ったりすることで体液の循環が促進され、そこからアイデアが生まれることにつながるのでしょう。

なお、この脳の血液の循環という観点でいえば、散歩をするというのも有効な方法で、実際、世の中の著名な文筆家などの趣味が散歩だということもよく聞く話です。

さらに、自分の今考えていることを人に話すということも自分の考えをまとめたり発展させたりするための重要なきっかけとなります。

自分の考えていることを人に伝えるためには、自分が本当にそのことを理解しておかないと伝達できませんし、その際、その内容を伝えた人からいろいろな質問やアドバイスが出てくると自分では思いつかなかった視点やアイデアに気づくことにもなります。

実際、私自身も人に自分の考えていることや疑問に感じていることを話しているうちに、「これはこういうことなのかもしれない」というように自分で自分の疑問のあり方やその解決法の手がかりに気づくということもよくあります。

研究者が学会で自分の研究成果について発表するのは、このような意見やアドバイスを手がかりとして自分の研究をさらに発展させるという側面も多分に含まれているわけです。

以上のようにして日常生活の中で思いついたアイデアについては、前項の「研究のアイデアをストックする――知的生産の技術とツール」のページで紹介したような情報カードに書いていきますが、その際にもできるだけ思考を妨げないようにインクがすぐに出るペンや書きやすい紙の材質などにもこだわりたいところです。

これは私自身、何度も経験してそのたびに悔しい思いをしていることで、何かを思いついてその内容を情報カードに書こうとしたときに、ペンや紙の質が良くなくて「書きにくい」といった引っかかりを感じている間にせっかく思いついたそのアイデアが消えてしまうということがあるからです。

研究活動の主体は自分ですので、自分が研究しやすいライフスタイルに変えていくということがその成功の秘訣だといえるでしょう。

アイデアを発展させるための思考ツール

研究のアイデアを思いつくためには、それをうながすための思考ツールを活用することも重要です。

まず、私が実際に行っていたのは、「タコ足配線図」と呼ばれる図を書きながら思考を発展していく方法です。

これはある研究テーマについて、どのような要素や観点が含まれてくるのかについてそれらを連想ゲームのように列挙していき、線でつなぐというものです。

次の図は、私が新聞の「見出し」について考えたときのタコ足配線図になります。

この図を見ながら自分研究テーマでどのような要素が関わってくるのかについての全体像が浮かび上がってきます。

なお、これと似たような形で付箋を使って要素を書き出して貼っていくやり方がビジネスのアイデア出しの方法として紹介されていましたので、これは実際のビジネスでも応用がきくものといえます。

次に、人間の脳のはたらきとして、右脳はイメージ、左脳は理屈をつかさどるという話もよく聞くところで、この右脳と左脳の特性の違いを利用してアイデアを生み出しやすい状況を作っていくことも重要です。

たとえば、同じ物事でも文章で表現したりそれを図やフローチャートの形で書いたりするなど、複数のやり方で表現することもいろいろな観点からアイデアを出すことに役立ちます。

また、右脳のイメージで捉えるはたらきを読書に活用した、「フォトリーディング」と呼ばれる速読法も存在しています。

その詳細はこちらの「フォトリーディングのオフィシャルサイト:フォトリーダーズ.JP」のページで確認をしてもらいたいのですが、これは目を速く動かして内容を読み取ろうとする速読法ではなく、フォトリーディングでは文章の書かれたページをひとつの図や絵として右脳に入れていくようなイメージで書籍の内容を吸収していきます。

通常、研究に関連する図書が多くなる場合、その情報を覚えるためには膨大な読書の時間が必要となりますが、この方法を使うと自分の興味関心のある情報を右脳にイメージとしてインプットすることができます。

この読書法のどこがアイデア出しに有効なのかというと、そもそも自分の思いつきやアイデアというものは、もともと自分がそれまでに見聞きした情報同士が思いもよらない形で結びつくことから無意識的に生まれてくるものです。

ということは、自分が何かのアイデアを思いつきやすいような状況にしていくためには、そのつながりの元となる知識や情報群をあらかじめ頭の中に入れておく必要があるといえます。

フォトリーディングは、いわゆる普通の読書のようにその内容を文章として理解することはできませんが、書籍に含まれる膨大な情報を図としてインプットすることはできますので、それをアイデア出しに必要となる元の情報の収集に活用するわけです。

それと同時に、私がアイデア出しのために重視している要素として睡眠が挙げられます。

みなさんも人間が寝ている間に脳の中では必要な情報と不要な情報を分けて情報の整理が行われているという話をどこかで聞いたことがあるかもしれません。

この脳にインプットした情報を無意識の領域に整理して入れてくれるのが睡眠の役割だと私は捉えていて、フォトリーディングを用いて情報のインプットを行い、それから睡眠で情報を整理してアイデアが思いつきやすくならないかと考えたわけです。

実際、このフォトリーディングを活用した方法を試してみると、日常生活の中で何か考えごとをしているときになぜか聞いたこともない言葉が浮かんできたり、思いもよらないアイデアを思いついたりするという状況が何度かありました。

アイデアというものは自分の意思で任意に思いつけるようなものではなく、いわば自分の手の届かない無意識の領域にあるものです。

結局、自分がアイデアを数多く思いつけるようになっていくためには、そのような無意識の領域に対してどのように意識的にアプローチしていくのかということも課題になってくるわけです。

フォトリーディングはそのために私が活用している方法のひとつですが、いずれにしても勉強をしたらしっかりと睡眠を取ることもより多くのアイデアを思いつくことのできる生活習慣につながると私は考えています。

研究者はアイデアマン

以上、アイデアを思いついたり出したりするための方法をいくつか紹介してきました。

ただ、これはあくまで私自身がより効率よくそれを実現するために試したり実践したりした方法になりますので、他にもみなさんに合ったやり方や考え方もあると思います。

このように考えてくると、研究者は自分の研究テーマを進めるためにいろいろな物事の捉え方や考え方をする必要がありますので、見方を変えればアイデアマンという側面があるともいえるでしょう。

今回は、研究テーマを進めるためのアイデアを生み出す方法として紹介しましたが、研究に限らずどんな状況でも工夫やアイデアを出して乗り越えていけるアイデアマンというのはどの業界でも求められていますので、そのためのひとつの視点として参考になれば幸いです。