「笑い」の日記帳で認知症を予防する
超高齢社会に突入した日本社会にとって、中高年の認知症をどのように予防していくかは今や大きな社会的な課題となっています。
特に、最近では、認知症の症状が見られる人びとによる交通事故やその他の事件が発生していることから、認知症は私たちにとって身近で避けられない問題となりつつあるといえます。
その中で、日記をつけることが認知機能の維持・向上をうながすことが指摘とされており、それを認知症の予防・対策に活かす取り組みが始まっています。
今回は、日記が認知症の予防にどのような効果があるのかを振り返るとともに、それに「笑い」加えた「笑活日記」を用いて認知症予防に活かす取り組みをご紹介をします。
認知症で低下する3つの機能
まず、認知症で低下する脳の機能についておさらいしておきましょう。
認知症の症状の前段階として、「エピソード記憶力」「注意分割能力」「計画力」という3つの機能が低下することが知られており、症状の進行が進むと日常生活を送ることが困難になってきます。
「エピソード記憶力」とは、体験した出来事や物事を記憶しておく能力で、これが低下するともの忘れが多くなったり自分がどこにいるのかがわからなくなったりします。
「注意分割能力」は、複数の物事を同時に行うときに適切に注意を配る機能のことです。
この能力が衰えてくると同時並行で物事を考えるのが難しくなりますので、テキパキと仕事が進められなくなったり迷うことが多くなったり、さらには人の気持ちや立場が推察できなくなることもでてきます。
「計画力」は、新しいことをするときに段取りを考えて実行する能力です。
この能力が落ちてくると効率のよい行動というものができなくなりますので、物事の優先順位が分からなくなったり、新しい出来事や体験に遭遇することを避けるということに陥ります。
ここに挙げた3つの機能はいずれも脳における認知機能に関わるものであることから、脳を鍛えることが認知症の予防・対策につながります。
近年、これら3つの機能を維持・向上させるものとして認知症予防の現場に取り入れられているものが、日記なのです。
日記の効用――自分の経験を思い出す
日記の最大の特徴は、自分の経験したことを記録し、それを振り返ることができることです。
「エピソード記憶力」は、過去の出来事や体験を思い出そうとすることによって鍛えられます。
特に、日記には日付や天気を書く欄がありますので、「いつ」「どこで」「だれと」「どのようなことをした」という時間・空間の軸から自分の体験を思い返すことによって「見当識」(けんとうしき:自分が今どこにいるのかを推察するための時間的・空間的感覚)の能力を養うことにもつながります。
また、日記を書くときには、「手を動かしながら」「思い出しながら」「日付を確認しながら」など、複数の物事を同時に処理することになります。
さらに、後になって日記を見返して記憶をたどるときには、いわゆる「芋づる式」に複数の出来事や物事が相互に関連した形で出てきますので、「注意分割能力」を鍛えることに役立ちます。
最後の「計画力」についても日記によって鍛えることが可能です。
日記を続けることや自分の頭で文章を考えてそれを順序良く記述していくことは、物事の重みづけや時間的順序などを判断して整理することにつながりますので、計画力の訓練に直結します。
以上のように、日記には脳を鍛える要素が数多く含まれており、このような日記の特性が認知症の予防・対策の一環として取り入れられているのです。
「笑い」の日記帳で認知症の予防を目指す
この日記の機能に「笑い」を加えて脳の活性化をさらに高める目的で私たちが開発したのが「笑い」の日記帳、通称「笑活日記」(わらかつにっき)です。
これは私たちが一日の中でどんなことで笑ったのかを思い出しながら書き出す「笑い」に特化した日記帳です。
通常、自分の笑った内容についてはすぐに忘れてしまってなかなか思い出せないものですが、実は、この「なかなか思い出せない」というところがポイントになっています。
つまり、思い出しにくものをあえて思い出そうとすることが、認知機能の維持・向上をうながすのです。
この日記帳では一日を過ごす中で自分が笑った内容について、「どこで」「だれと」「どんなことで笑った」という項目に答える形で思い出しながら記入していきます。
なお、この日記の効果は書いたそのときはもちろんのこと、自分の書いた内容を後になって見返すときにもそれが発揮されます。
つまり、そこには自分がかつて遭遇した「面白いこと」や「楽しいこと」に触れて笑った経験が書かれていますので、日記に書かれた言葉を手がかりとしてそのときの状況を思い出して笑うことが脳の活性化につながるわけです。
また、「ああ、そういえば、あのときはこんなことがあってよく笑ったな」という風にいつでもどこでもポジティブな気持ちになれるのがこの日記帳の最大のポイントになります。
「笑い」の日記帳のワークシートについてはこちらの「笑い」の日記帳――「笑活日記」(わらかつにっき)のページで無料で提供しておりますので、みなさんダウンロードしてご利用ください。