先行研究を検索・発掘する――大学の図書館の使い方
大学院では自分がある研究テーマを選択すると、自分がそれに取り組むよりも前にどのような研究がどこまで進んでいるのかを調べる必要があります。
この自分よりも前になされていた研究のことを「先行研究」といいます。
先行研究を調べるためにはそれなりのスキルが求められるのですが、今回はその具体的な方法についてご紹介していきます。
先行研究を調べる意義
まず、研究活動の前提として、自分がある研究テーマを設定したら、それを理屈が通るように自分の好きなように考察・分析してもまったく問題はありません。
むしろ、研究とはある研究の対象について自分なりの意見や分析方法、その結果として得られた新しい事実を発表するものです。
ただし、ここで問題となるのは、「自分だけが発見した!」と思った事柄がすでに別の誰かによって発見・公表されていることです。
すでに他の誰かが発見したことを自分が発見したものとして発表することは、研究の世界ではタブーだといえます。
研究の世界でよくある間違いとしては、人の文章や分析、業績を断りなく取ってしまう「盗用」や「剽窃」(ひょうせつ)、調査データが存在していないのにそれがあるかのようにでっちあげる「捏造」(ねつぞう)などが挙げられます。
特に近年では、どこかの大学の研究者の論文において他人の文章をそのままコピーして貼り付けていたり、データをそのまま使っていたりするなどの問題がマス・メディアでも取り上げられることが増えています。
そのため、自分の考えたいテーマについて、他の人がどのような意見や分析をしているのかを調べることは、ほとんど必須の作業ということになるわけです。
とはいえ、このことについては必要以上に恐れることはありません。
たとえば、自分がある研究テーマに関する先行研究を調べていて、他の人の考え方や分析の方法を見つけたとしましょう。
自分よりも一足先に他の人がその研究テーマについて良い方法で分析していたり考察していたりすると、正直、悔しい部分があるかもしれませんが、自分がそれを見つけたということは実はとても大きな収穫だといえるのです。
というのも、自分が考えたい研究テーマについて他の人の研究成果や業績をみずからの論文で言及して引用することは、「自分はこの研究テーマについてしっかりと先行研究を見ていますよ」という証拠になるからです。
また、自分がその先行研究を見つけたということは、それとは別の分析方法や考察の必要があることが分かったということですので、その研究テーマの分析や考察の方向性が決まってくるともいえるわけです。
大学生の提出するレポートでは、インターネットなどで書かれた他の人の意見や文章をそのまま丸写していたり、自分の意見であるかのように書かれたりしているものが非常に増えてきています。
しかし、他人の業績については自分がしっかりと先行研究を調査して「自分が見つけた」という証拠のためにもその人の名前を明記し、「この人はこう言っている」「あの人はこのように論じている」と引用した上で、自分の言いたいことや発見したことを自分の言葉で書いていくだけで良いのです。
先行研究の調べ方と図書館の使い方
自分がある研究テーマを選択したら、それに関連する書籍や論文を見つけるところから先行研究の調査が始まります。
研究者によって書かれた書籍や論文には、そこで引用した業績や論文の文献リストが掲載されていますので、それを図書館で検索して手に入れて自分もそれを読むということを行います。
また、そのようにして手に入れた書籍や論文には、さらに文献リストが掲載されていますので、そこで必要と思われるものをまた検索して手に入れていきます。
このやり方は、いわゆる「芋づる式」というものです。
この文献を集めていく作業を続けていくと、やがてその研究テーマでは毎回取り上げられることの多い定番ともいえる書籍や論文というものが浮かび上がってきます。
その文献こそ、自分の取り組みたい研究テーマにおいて非常に重要な地位を占めるもので、それは自分が引用するに値するものだといえるわけです。
私自身が先行研究を調べる場合は、図書館の地下にある「書庫」というところを使います。
大学の図書館では、比較的新しい書籍や論文ついては地上部分の書籍棚、いわゆる「開架」(かいか)に置かれているのですが、古い書籍は地下の「書庫」あるいは「閉架」(へいか)の棚に収められていきます。
特に、ある研究テーマについて書かれた論文は、研究者が執筆する論文が収録されている「紀要」(きよう)や「論集」といった論文専用の雑誌に掲載されているので、それが置かれている書庫に行ってそれを閲覧する必要があります。
今の図書館では、書籍や雑誌名を検索するためのパソコンがありますので、調べたいキーワードをそこに入力して、自分の見たい書籍や雑誌がどこに設置されているのかというナンバーを調べてその場所に行くことになります。
私の場合であれば、手に入れたい・閲覧したい書籍や論集のナンバーをすべて控えて書庫に入り、棚からすべての文献を収集して机の上に集めて置いていきます。
大体、50~100冊の書籍や論集を集めて机の上に置き、それらの文献の内容をチェックしながら自分の研究テーマに関連するかどうか、引用して使えるかどうかの選別を行います。
その際、そこで不要な文献については返却用の棚がありますので、そちらにすべて置いてしまいます。
実は、大学の図書館の書庫の場合、自分で書籍や論集を探して棚から出すことはできるのですが、それを棚に戻すことは利用者が行ってはいけないルールになっており、それを書棚を戻す役割はすべてそこに勤務している司書さんが行います。
その理由としては、書庫に置かれている膨大な量の図書はすべてナンバーで管理されており、もし利用者が勝手に自分で間違った場所に戻してしまうと、その図書は「所在不明図書」となってしまって二度と利用できなくなるからです。
このように、大学の書庫では返却専用の棚に不要な文献を置くことができるので、自分は必要な文献のみをより効率的に手に入れることができるわけです。
手元に残った必要な文献のうち、後で見たいものについては表紙と論文と奥付などの部分をコピーして手に入れ、研究を進めるための参考情報として活用していきます。
あまり知られていない図書館の利用法
大学に通っていた人であれば、一度は大学の図書館に入ったことや利用した経験があると思います。
ただ、私自身も大学生のときはそうでしたが、どちらかといえば本格的な文献収集のために活用していたというよりは、主に自習をしたりレポートを書いたりといった使い方が多かったように思います。
そのため、実は大学の図書館というものの詳しい使い方についてはよく分からないまま大学院に進んでいたということになります。
とはいえ、大学院における研究では先行研究にできるだけ多く触れることが求められるため、図書館の使い方に習熟することは必須のスキルだといえるでしょう。
今回は図書館に所蔵されている文献の見つけ方について紹介しましたが、その他の部分については、また改めて取り上げることにしましょう。