先行研究の活用方法――「勉強」から「研究」につなげる

前項では、図書館でみずからの研究テーマに関連しそうな図書や雑誌論文、研究論文を検索・収集する方法について解説してきました。

当然、これらは集めただけでは意味がありませんので、それを自分の研究に活用していくことが必要です。

今回は、研究における先行研究の活用方法についてご紹介していくことにしましょう。

先行研究は自分の「研究」に使うもの

さて、図書館で収集してきた先行研究の文献ですが、これをどのようにして扱うかによって、あなたが「勉強」をしようとしているのか、それとも「研究」をしようとしているのかが分かれてきます。

こちらの「大学院ってどんなところ?――「研究」と「勉強」の違い」のページでも触れたように、「研究」はいわゆる「勉強」とは違うところがあります。

この勉強は、自分の知らない専門用語や知識、物事や出来事などを学習して覚えていくという意味合いで使っています。

しかし、この勉強をずっとを続けていくことが「研究」なのではありません。

研究とは、自分の発見や理論などを外部に向けて公表することが最終目標であり、その具体的な手段が自分の執筆する論文や書籍ということになります。

つまり、勉強はどちらかといえば専門用語や知識を覚えたり、自分の研究テーマがそれらに対してどのような位置づけにあるのかを知ったりするための「インプット」に相当するものであるのに対し、研究は自分の学んできたことや新たな発見を他の人に対して解説していく「アウトプット」になります。

大学院に入った最初の段階だと、自分の専門分野に関する知識というものについてはどうしても乏しいところがあるため、知らない知識や専門用語を覚えていく勉強という部分は必要不可欠だと考えられます。

ただ、ある程度の知識が身についてきたら、次は自分の主張したいことは何か、それをどのようなロジックで他の人に説明していくのかといったアウトプットに向けた文献の活用の方法を考えることが研究活動を行うということになるわけです。

そのため、研究活動において手に入れた文献や資料というものは、自分の仮説や理論をアウトプットするための「ツール」や「手段」という意識をもっておくことが非常に大切になってきます。

先行研究を「使う」方法

さて、自分の収集した文献や先行研究を使う方法については、「勉強」と「研究」の2つのパターンがあるのですが、実はそれほど難しいことではありません。

自分の集めてきた文献や先行研究は、当然ながら自分の研究テーマに関わるものであるはずですので、そこには自分のそれまで知らなかった事実やデータがたくさん含まれています。

この自分が知らなかった事実やデータについては自分がそれまで知らないことですので、そういう出来事や事実が発見されたことを「勉強」として覚えてしまえばよいわけです。

また、自分が文献や先行研究を読んでいて、優れた研究・分析方法やデータを発見したとしましょう。

これについては、実はその研究者の人名や発行元を引用さえしてしまえば「自分が発見したもの」として使ってしまってもまったく問題ありません。

たとえば、自分が発表する論文の中で、先に「自分はこの研究テーマについてこのような研究方法・分析方法を考えた」として書いてしまい、その後に「この●●という研究者も、この文献の中で自分と同様の考え方をしている」としてその人の研究成果に言及するだけでよいのです。

順番で考えると、先にその研究方法・分析方法について発見・公表したのは、当然ながらその先行研究を執筆した研究者であり、自分がそれを知ったのはその研究者よりも後になるわけですが、このような方法でしっかりと引用をして言及をすることで、「自分がこの研究テーマを考えるときには、当然、それぐらいのことは考えて調べていますよ」という研究に対するしっかりと取り組んでいる姿勢を示すことができるのです。

ただし、自分の研究テーマを分析する中でそのような先行研究に言及・参照することは大切ですが、それをふまえた上で「自分はこの研究テーマをに対してどのような分析をするのか」「どのような結果を導き出すのか」という自分なりの考察や理論・結論を示すことは必要です。

先行研究を調べることで、自分の考えがどのような位置づけにあるのかを知ることができ、自分の考えや分析方法、結論などを支えるためにそれらを使っていくことがまさに研究活動だといえるでしょう。

「使える文献」「使えない文献」という考え方

研究者の間ではよく「使えそうな文献」という言い方をするのですが、それは自分の選定した研究テーマについてその文献にある分析や研究成果を引用することで自分の選択した研究テーマが真に研究に値するものであることを示したり、自分の言いたいことをサポートしてくれたりするものをあらわしています。

この文献が「使える」「使えない」という判断は、自分の主張したいことをサポートしてくれるものなのか、それとも反証材料となるものなのかなど、自分の研究テーマにどれだけ深く関わっているものなのかという意識から出てくることになります。

研究を始める前は、それまで自分の知らなかった専門用語や出来事を覚える「勉強」という側面がありますが、「この文献は、自分の論文に引用したいな」「この人の研究成果を紹介することは非常に重要だ」など、文献を自分の主張の裏付けのためのツールや道具として「使う」意識が出てくると、研究者という人の考え方に近づいていきます。

自分の研究テーマについての自分なりの仮説や理論、結論を外部に向けて論文という形で公表することが研究活動のひとつの目標となりますので、このような文献や先行研究に対する考え方になっていくのはある意味自然なことだといえるでしょう。