ヒトはなぜ笑うのか?
私たち人間は日常の中で何気なく笑っていますが、なぜ「笑い」という行動があるのでしょうか?
私たちが笑う理由や原因としては、一般的には「楽しいから」「面白いから」というものが浮かびます。
ただ、そういう感情を抱いたときに私たちが「笑い」という行動を取るのも、よくよく考えて見れば不思議な話ではあります。
実は、笑いは私たち人間が不快な状況に直面したときに、それを乗り越えるために無意識にはたらく身体的なメカニズムなのです。
「笑い」のメカニズム
突然ですが、「笑い」の反対の感情は何かご存じですか?
多くの人は、「泣き」「怒り」などが思い浮かぶと思います。
しかし、実は笑いの反対は「驚き」なのです。
笑いは、もともとある人が「この次にはこう来るかな?」という予期や予想をしている状態で、それとは違った刺激が入力されたときに発生することが知られています。
この驚きには2種類があって、「自分が予想したものとまったく関連のない刺激」が目の前にあらわれた場合には、単なる「驚き」として私たちは普通に驚きます。
しかし、「自分の予期や予想と若干似ていながらも違う刺激」が来たとき、人間はその驚きがきっかけとなって笑いが生じます。
この例を考えるために、「シルバー川柳」(第15回シルバー川柳入選作品)を取り上げてみます。
「ハイタッチ 腕が上がらず 老タッチ」
この川柳は、笑いのメカニズムを考える上で大きな手がかりを与えてくれます。
川柳の冒頭の「ハイタッチ」という言葉を見ると、私たちの頭の中では「手を高く上げる動作」を思い浮かべます。
同様に、次の「腕が上がらず」のフレーズからは手が高く上げられない状況が想起されるでしょう。
このように、ある言葉をきっかけとして私たちの頭の中に浮かぶイメージや記憶を「予期」や「予想」といい、それによって私たちの認識の中では最後のフレーズを目にするまでの準備状態が出来上がります。
最後のフレーズの「老タッチ」という言葉は説明するまでもなく、「ロー」(=低い)という状況と、老いて腕が上げられない「老」という言葉が重ね合わされたシャレになっており、ここがいわゆるオチになっています。
ここに出てきたシャレはまったく別の状況、すなわち「ロー」と「老いている」という「似ているけれども違う」「違うけれども似ている」事柄をつなげる役割を果たしています。
私たちが予期・予想をしている状態でこの最後の2つの状態が重なった言葉に遭遇すると、頭の中は驚いてしまい、混乱してしまうのです。
頭の中が驚きによって混乱しているということは、脳にとってストレスのかかっている状態といえます。
実は、笑いという動作はまさにこのときに脳のストレス状態を解消するために行われているのです。
「笑い」がストレスを解消する理由
すでにご存じのとおり、私たちが笑うときには「アッハッハ」という呼吸をともなった身体動作を行います。
「笑い」は、混乱によって脳にかかったストレス状態を解消するため、笑いにともなう身体動作によって強制的に頭の中の思考をストップさせるとともに、笑ったときに生じる呼吸によって脳に酸素を送り、脳の状態を再起動させます。
このとき重要なことは、笑いによって脳が元あった状態にリセットされるのではなく、自分にとって笑いの刺激になった事象や出来事、ここではすなわち「老タッチ」というそれまでになかった新しい物事の枠組みを頭の中に受け入れることが行われるのです。
笑いには自分にとってつらい状況や苦しい状態を乗り越える効果があるといわれていますが、それはこのような脳にとって不快な状況を笑いという呼吸をともなった身体動作によってリセットするはたらきから生じているのです。
新しい刺激は脳にとって不快な状況を引き起こすことがあるのですが、そのようなときにも私たち人間は笑いによってその新しい刺激にともなうストレスを解消しながらも発展的に受け入れていくというメカニズムをそなえているのです。