「笑い」の効果の真実――「あるもの」を「ないこと」にする
「笑い」の本当のはたらきというものを知っているでしょうか?
実は、笑いには「あるもの」を「なかったこと」にする効果があるのです。
たとえば、あなたが何か真面目なことを誰かに一生懸命に話しているときに、相手にそれを馬鹿にしたような感じで「アッハッハ」と笑われると、プライドが傷つけられたような感覚に陥った経験はないでしょうか。
あるいは、行き詰まった会議の中や緊迫した状況で誰かが面白いことを発言したことがきっかけでその場にいる人びと笑うと、その場の緊張感が少し緩んだような体験をした方もいるでしょう。
これはどちらも笑いの共通の機能、すなわち「あるもの」を「なかったことにする」はたらきから生じているのです。
本当は恐ろしい「笑い」の効果
最初に結論からいえば、「笑い」は自分が遭遇した出来事や目の前の状況を「ゼロ」(=無の状態)にしてしまう効果があります。
先に挙げたひとつめの例では、あなたの発言が誰かに笑われると「バカにされた」と感じたり自分のプライドが傷つけられたような感覚に陥ったりすると思います。
このとき、あなたの持っている「人格」や「権威」、「プライド」といったポジティブなものが笑いによってゼロ、すなわち無いものとして扱われることになります。
その結果、自分にはあるはずのプライドが笑いによって強制的に消去させられてしまうことによって、結果的にネガティブな状況に自分が置かれたような感じがするというわけです。
逆に、ネガティブな状況、先ほどの例でいえば、会議が進まずに緊張感が高まっている中で笑いが生じるとそれが緩和される場面について考えてみましょう。
実は、このときも笑いがその場の状況を「ゼロ」にするはたらきは同じで、緊張感が高まっているネガティブな状況が笑いによって「ないこと」にされることによって、その状況が緩和されたと私たちは感じるのです。
私たちが生活する中ではさまざまな場面に遭遇しますが、笑いはとにかくどんな状況でもそれらを「ゼロ」すなわち「なかったことにする」というはたらきをもっているのです。
不謹慎な「笑い」
笑いはこのようなはたらきをもっているため、適切な場面で笑いが使われれば安心感や信頼感といったポジティブな感覚を私たちにもたらしてくれます。
たとえば、初対面の相手と会話をする場合、最初から打ち解けることは難しいですが、そこで笑顔や笑い声をお互いが積極的に行うことによって、「アイスブレイキング」と呼ばれるすなわち緊張の緩和という安心感を作り出すことができます。
しかし、逆に、不適切な状況で笑いが起こると、それはとてもネガティブな結果に陥ることもあります。
たとえば、お葬式などのような悲しみにあふれているような場面で「アッハッハ」と大きな声で笑うことは、一般的には不適切な行為だとされています。
それはお葬式にともなう真面目な雰囲気や悲しい状況が笑いによって消されてしまうからです。
本サイトでは「心身の健康に良い笑いを増やしていきましょう」ということをお伝えしていますが、笑う場面や状況というものを考慮に入れた上で笑わないと、周りからは「空気の読めない人」「デリカシーの人」として見られてしまいます。
笑いにはネガティブな状況を打ち消すことで、結果的にポジティブな状況を生み出す力がありますが、その一方で笑いのTPOを間違えるとその効果がまったく反転してしまうことになるのです。