誰も知らない「笑い」がうつるための条件
「笑い」は伝染力の強い行為で、誰かが笑っているのを見聞きすると、周囲の人にもそれがうつってしまうことがよくあります。
たとえば、私たち人間は、たとえ自分が「面白い」「楽しい」という感情を抱いていなくても、目の前の相手が笑顔になるとその笑顔につられて自分も思わず笑ってしまうという習性があります。
また、誰かが笑っている声を聞くと、こちらにもそれがうつってしまうことが起こります。
このように、他の人の笑いが自分にうつるきっかけとして一般的に知られているのは、「笑顔」と「笑い声」です。
しかし、実はこれ以外にもある人の笑いが別の人にうつるきっかけというものが存在していたのです。
それは私たちが「横隔膜式笑い測定機」を使って笑いの実験を行っているときに偶然発見したものです。
今回は、本サイトをご覧のあなただけにこの世紀の大発見(?)をご紹介しましょう。
「笑い」の測定実験で明らかになった真実
この笑い測定実験は、「驚き」の後に「笑い」が生じることを明らかにしようとして行われました。
まずは、何も考えずに次の笑い測定機の実験風景をご覧ください。
(再生ボタンをクリックすると動画が再生されます)
いかがでしょうか。
突然びっくり箱から飛び出してきたおもちゃのヘビに驚いて、そこから被験者が笑っている様子が見て取れます。
ただ、この実験風景、普通に見ているだけでは何の変哲もないただ笑っているだけの動画なのですが、そこにはこれまで誰も捉えられなかったものが映っていたのです。
黒い服を着た被験者は、驚いた後に机に突っ伏してかなり大きく笑っています。
その後、あることをきっかけとして左隣にいる白い服を着た女性に笑いがうつっています。
そのきっかけとは、先に挙げた笑顔や笑い声ではなく、それとはまったく別の動作、しかもそれが2回生じています。
あなたには、この笑いがうつったきっかけに気づくことができるでしょうか。
これはこれまで講演や研究会、研修会などで何度も流して聴衆の方に聞いたことがあるのですが、今まで一度も当てられた人はいませんでした。
それぐらい、この笑いがうつったきっかけというものは無意識で一瞬のものなのです。
…
……
………
答えをいうと、それは「アイコンタクト」(目を見合わせる)です。
実は、あまりにも短すぎて分かりにくいのですが、この動画の中で黒い服の女性と白い服の女性はお互いの目を2回見合わせており、それがきっかけとなって黒い服の女性から白い女性に対して笑いがうつっているのです。
アイコンタクトでうつる「笑い」
この笑い実験では、横隔膜式笑い測定機を用いて映像に出ていた4人の被験者の笑いを測定していました。
次の図は、笑い実験において測定された2名の被験者の笑いの波形です。
青い波形(A)が黒い服を着ていた右側の女性、赤い波形(B)が白い服を着ている左側の女性です。
図を見てみると、「アイコンタクト」が発生してから後、白い服を着ている女性の波形が大きくなっていることが分かります。
これは、目を見合わせてから笑いがうつったことをあらわしています。
また、このアイコンタクトが生じた後に笑いがうつった時間は約0.2秒というとても短い時間です。
つまり、この笑い測定機で被験者の笑いを測定していたために、このような視線をきっかけとして笑いがうつるという無意識の現象を捉えることができたのです。
実際、この被験者に後で話を聞いてみましたが、目を見合わせてから笑いが相手にうつったことなどについてはまったく覚えていないとのことでした。
それほどまでに、「笑い」というものは無意識のうちに行われている一方で私たちのコミュニケーションを左右しているのです。
あなたも、ぜひ、動画を見返してみて、アイコンタクトで笑いが相手にうつっている様子を確認してみてください。
相手との信頼関係が「笑い」を共有する
もうひとつ、この笑い実験の結果で分かったことがありました。
それは、相手に対する信頼が笑いを共有するということです。
後でこの2名の被験者に話を聞いたところ、彼女らはとても仲の良い親友同士だったということでした。
つまり、お互いにもともとの信頼関係があったことから、相手と目を見合わせただけで笑いとその面白さを共有することができたのです。
逆にいえば、信頼関係があればどのようなことがきっかけであったとしても笑いが生じるということです。
人とのコミュニケーションでは、「笑い」が相手との信頼関係を築くきっかけになっているとともに、その信頼関係がさらなる笑いを生み出すきっかけともなっているのです。