「横隔膜笑い測定機」の特徴
私自身は大学院でもともと新聞やインターネットなどのマス・メディアに関する研究を行っていましたが、とあるきっかけから人間の「笑い」を客観的・数量的に計測する「横隔膜式笑い測定機」という、一見すると何だかよく分からない装置の開発に携わることになりました。
今回は、この笑い測定機がどのようなものなのかについてご紹介します。
「腹」の笑いの特徴
「笑い」を機械で検出するためには、そもそも私たち人間がその人が笑っているかどうかをどのような手がかりから判断しているのかを知る必要があります。
まず、私たちはある人が「笑顔」になったり「笑い声」を上げていたりすると、その人が「笑っている」と感じます。
また、それ以外にもこれはなかなか分かりにくいのですが、「腹を抱えて笑う」という言葉があるように、私たちが大きく笑うときには「腹」を揺らして笑います。
そのため、実は「腹」という手がかりも存在しています。
この腹の笑いの特徴としては、その人が本当に「面白い」「おかしい」という感情を抱いたときにのみ動くということが挙げられます。
たとえば、あなたがまったく面白いと感じていなくても自分の意識で笑顔という表情を作ったり笑い声を上げたりすることは容易にできますが、腹を使った笑いというものは自分の意図で動かすことはかなり難しいものとなります。
つまり、この腹の部分の動きを正確に捉えることができれば、その人がどれくらい「面白い」「楽しい」といったポジティブな感情を抱いているのかという感情の量のようなものを客観的・数量的に把握できるということになるのです。
さて、腹の部分において人間の「笑い」を正確に把握するときにもっともその動きが出やすいのは「横隔膜」になります。
あなたも大きな声で笑った経験があると思いますが、人間の笑いは「アッハッハ」という呼吸と連動しています。
呼吸は肺を膨らませたりしぼませたりすることで行っていますが、その肺の動きを調節しているのが横隔膜です。
この横隔膜の動きを捉えて、人間の笑いを測定しようとするのがまさに「横隔膜式笑い測定機」(DLMS: Diaphragmatic Laughter Measuring System)なのです。
「腹」の笑いを計測する「横隔膜式笑い測定機」
では、笑ったときの横隔膜の動きをどのようにして把握するかですが、これには筋電計という測定装置を使います。
筋電計は筋肉の動きを電気信号として捉える装置で、筋肉が強く収縮したときには強い電位が検出され、それが電気的な波形として表示させることができます。
これを胸骨末端にある剣状突起(けんじょうとっき)という場所の表層の部分に筋電計の電極を貼り付けて笑ったときの横隔膜の動きを測定します。
横隔膜は呼吸運動に連動した筋肉のひとつでこの剣状突起とつながっていますので、その部分に筋電計の電極を貼り付けることで、横隔膜の動きがわかるというわけなのです。
この横隔膜が笑ったときの動きは、以下のような波形として取得することができます。
図の中央でギザギザの部分が見えますが、これが「笑い」の波形になります。
また、それ以外の部分で見られる定期的な波形の突出は心拍、すなわち心臓の鼓動です。
これは胸の部分に電極を付けているために不可避的に混入することになりますので、ここから波形解析で心拍の動きを取り除く処理を行い、笑いの動きのみを取り出す作業を通じて笑いを数量的に捉えることができるという仕組みになっています。
この波形を変換して笑いを捉える具体的な方法については、こちらの「笑い」の波形の解析アルゴリズムのページをご参照ください。
機械を用いて人間の「笑い」を実際に測って数値で捉えようとすると、なかなか大変で地道な作業が必要となります。
以上、「横隔膜式笑い測定機」の仕組みを簡単にご紹介しましたが、実際に動いている様子についてはこちらの笑い測定機で「笑い」を「見える化」するのページをご覧ください。